
「銀行の借入に付けた経営者保証は、あとから外せるのか」。結論から言うと、すでに付けている経営者保証も、金融機関に解除(や保証金額の見直しなどの変更)を申し入れることができます。「経営者保証に関するガイドライン」には既存の保証契約の見直しの項目があり、申入れを受けた金融機関は、保証の必要性を改めて検討し、その結果を丁寧かつ具体的に説明することとされています。ただし、申し入れれば必ず外れるものではありません。判断材料になるのは、会社と経営者個人のお金の分離、会社だけの力で返済できるか、財務情報をきちんと出しているか、といった会社の状態です。あわせて、2026年4月からは、2023年3月以前に結んだ個別の保証契約についても、金融機関が「どうすれば解除の可能性が高まるか」を説明・記録することが、金融庁の監督上の着眼点として明確化されました。この記事では、法人・会社向け借金再生コンサルティングのオフィスレナセルが、解除の申入れの進め方と、要件を満たしきれないときの選択肢を整理します(2026年9月時点の公表資料にもとづきます)。
既存の経営者保証は「解除の申入れ」ができる
経営者保証に関するガイドラインは、日本商工会議所と全国銀行協会を事務局とする研究会が2013年12月に公表し、2014年2月1日から適用されている自主的なルールです。法律ではないため法的な拘束力はありませんが、金融機関・中小企業・経営者が自発的に尊重することが期待されています。ガイドラインそのものの位置づけや3つの要件の考え方は、経営者保証ガイドラインの活用条件とは?3つの要件を解説で詳しく説明しています。
このガイドラインの第6項「既存の保証契約の適切な見直し」には、会社と経営者の側、金融機関の側、それぞれの対応が書かれています。
▶ 会社と経営者の側
既存の保証契約の解除等を申し入れるのに先立ち、ガイドラインが求める経営状況(後述の3点)を将来にわたって維持するよう努めることとされています。
▶ 金融機関の側
「主たる債務者において経営の改善が図られたこと等により」解除等の申入れがあった場合は、改めて経営者保証の必要性や適切な保証金額等について「真摯かつ柔軟に検討を行う」とともに、その検討結果を「丁寧かつ具体的に説明する」こととされています。
つまり、ガイドラインが想定しているのは、会社の経営が改善したことを材料に、経営者の側から見直しを持ちかける流れです。返済が苦しく条件変更の相談をしている最中の会社は、まず経営の立て直しが先になることが多いでしょう(返済が苦しいときの考え方はリスケジュールの仕組みと交渉のポイントをご覧ください)。
金融機関が解除を検討するときの判断材料
ガイドラインは、経営者保証なしで資金を調達したい会社に、まず次の経営状況であることを求めています。
① 法人と経営者との関係の明確な区分・分離
② 財務基盤の強化
③ 財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
(経営者保証ガイドラインの活用条件の記事で「3つの要件」として紹介したのは、この①〜③です)
そのうえで金融機関の側は、次のような要件が将来にわたって充足すると見込まれるときに、会社の経営状況、資金使途、回収可能性等を総合的に判断する中で、経営者保証を求めない可能性などを、会社の意向も踏まえて検討する、とされています。
ガイドライン第4項(2)が挙げる要件(イ〜ホ)
イ)法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている。
ロ)法人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えない。
ハ)法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得る。
ニ)法人から適時適切に財務情報等が提供されている。
ホ)経営者等から十分な物的担保の提供がある。
ロ)の「資金のやりとり」について、ガイドラインは役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付等を挙げています。会社から社長への貸付金が残っている、私的な支出が会社の経費に混ざっているといった状態は、ここで引っかかりやすいポイントです。また、ハ)の返済力やニ)の情報開示は、日頃の決算書・試算表・資金繰り表の出し方で評価が変わります(銀行への見せ方は資金繰り表の作り方と銀行への見せ方で解説しています)。
なお、これらは「すべて満たせば自動的に外れる」という基準ではなく、あくまで総合的な判断の材料です。
2023年4月と2026年4月の監督指針改正で何が変わったか
経済産業省・金融庁・財務省は、2022年12月23日に「経営者保証改革プログラム」を策定しました。このプログラムにもとづき、金融庁の監督指針が改正され、2023年4月から次の運用が始まっています。
保証を求めるなら「理由」と「解除への道筋」を説明・記録
金融機関が経営者等と個人保証契約を締結する場合には、保証契約の必要性等に関し、事業者・保証人に対して個別具体的に次の説明をし、その結果等を記録することが求められています。
・どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか
・どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか
経営者にとっては、「保証を外すには、何をどこまで改善すればよいか」を金融機関に具体的に尋ねてよい根拠になる改正です。金融庁によると、新規融資件数に占める「経営者保証に依存しない融資件数」の割合は、2025年度上半期に民間金融機関全体で55.8%に達しています。
2026年4月から:古い保証契約にも同じ説明・記録を
2026年2月20日に公表され、4月1日から適用された監督指針の改正では、2023年3月以前(経営者保証改革プログラム以前)に締結された個別の保証契約についても、新規に締結する保証契約等と同様に説明・記録を求めることが、金融機関に対する監督上の着眼点として明確化されました。
ただし金融庁の概要資料では、金融機関がこの説明・記録を行うにあたっては、顧客企業からの問い合わせや定期的な業況確認の機会等も活用しながら、対応可能な範囲で取り組んでいくことを期待する、とされています。すべての古い契約について金融機関から一斉に連絡が来る、という性質のものではありません。何年も前に付けた保証がそのままになっている会社は、決算報告などの機会に、経営者の側から問い合わせるのが現実的です。
要件を満たしきれないときの選択肢
ガイドラインは、金融機関の側に、停止条件または解除条件付保証契約、ABL(流動資産担保融資)、金利の一定の上乗せ等、経営者保証の機能を代替する融資手法のメニューの充実を図ることも求めています。信用保証協会の保証付き融資では、これを制度にしたものがあります。
信用保証協会の「事業者選択型経営者保証非提供制度」
令和6年(2024年)3月15日から申込受付が始まった制度で、一定の要件を満たす法人が、信用保証料率の上乗せを条件に、経営者保証を提供しないことを選択できるものです。東京信用保証協会の案内では、次のいずれにも該当する法人が対象とされています。
・過去2年間において、決算書等を申込金融機関の求めに応じて提出していること
・直近の決算において、代表者への貸付金等がなく、役員報酬等が社会通念上適切な範囲を超えていないこと
・直近の決算において債務超過でない、または直近2期連続で減価償却前経常利益が赤字でない(両方またはいずれか)こと
・決算書等の提出と、代表者への貸付金等がないことなどを、継続的に充足すると誓約する書面を提出していること
・信用保証料の上乗せを条件として経営者保証を提供しないことを希望していること
設立して間もなく決算がそろっていない法人は、一部の要件を問わない扱いがあります(東京信用保証協会の案内による)。この制度は、信用保証協会に保証を申し込むときに選ぶものです。すでに借りている保証付き融資に使えるか(借換えの扱いなど)は、金融機関・信用保証協会に確認してください。
上乗せ幅は、債務超過でないことと、2期連続の赤字でないことの両方を満たす場合は所定の保証料率に0.25%、いずれか一方の場合などは0.45%とされています(東京信用保証協会の案内による)。ガイドラインの要件をすべて満たしきれていなくても使える可能性がある一方、保証料の負担は増えます。対象となる保証や利用できる金額には上限などの取扱いがあるため、実際の条件は取引のある金融機関や最寄りの信用保証協会で確認してください。
事業承継・M&Aのときの経営者保証
社長の交代やM&Aは、保証を見直す大きな節目です。
▶ 前経営者と後継者の「二重徴求」は原則しない
2020年4月1日から適用されている「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」では、事業承継時の経営者保証の取扱いについて、原則として前経営者、後継者の双方から二重には保証を求めないこととされています。これは後継者の保証が必ず不要になるという意味ではなく、特則は、後継者との保証契約について、経営者保証が事業承継の阻害要因となり得る点を十分に考慮し、保証の必要性を慎重かつ柔軟に判断することを金融機関に求めています。また、ガイドライン本体でも、前経営者から保証の解除を求められた場合、金融機関は、前経営者が引き続き実質的な経営権・支配権を有しているか否かなどを勘案して、解除について適切に判断することとされています。
▶ M&A・事業承継を把握したら、金融機関が解除の道筋を説明
2024年10月1日から適用された監督指針の改正では、主たる株主等が変更になることを金融機関が把握した場合に、どうすれば経営者保証の解除の可能性が高まるか等の説明を事業者にすることが求められています。
連帯保証人としての責任の範囲や相続との関係は、連帯保証人の責任はどこまで?家族への影響と相続を解説もあわせてご覧ください。
解除を申し入れるまでの4つのステップ
▶ ステップ1:自社をイ〜ニの要件で棚卸しする
代表者への貸付金・仮払金は残っていないか、役員報酬や経費の線引きは説明できるか、会社だけの収益力で返済できる見通しか、決算書や試算表を定期的に出しているか。できていない点を洗い出します。
▶ ステップ2:金融機関に「足りない部分」と「改善の目安」を尋ねる
「どの部分が十分ではないために保証が必要なのか」「どのような改善を図れば解除の可能性が高まるか」を具体的に聞きます。前述の監督指針で、金融機関に説明と記録が求められている事項です(2023年3月以前の契約については、金融機関が対応可能な範囲で取り組むことが期待されている段階です)。信用保証協会の保証付き融資についている保証は、信用保証協会の扱いもあわせて確認してください。回答はメモに残しておくと、次の面談で進み具合を確かめやすくなります。
▶ ステップ3:改善の計画を立て、進み具合を定期的に開示する
指摘された点を、いつまでにどう改善するかを計画にし、決算や試算表とあわせて報告します。計画の立て方は経営改善計画書の作り方が参考になります。
▶ ステップ4:改善を材料に、解除(または保証金額の見直し)を申し入れる
いきなり全部の解除が難しい場合でも、保証金額の見直しや、保証を付けない新規融資から始めるなど、段階的な進め方もあります。どの形がよいかは、金融機関との対話の中で決まります。
金融機関から適切な説明がないと感じたときは、金融庁の経営者保証ホットライン(情報提供窓口・電話受付)があります。ただし、個別のトラブルについて、あっせん・仲介・調停を行う窓口ではありません。M&A・事業承継に関する保証の相談は、2026年5月1日に開設されたM&A・事業承継時における経営者保証情報ネットワークで受け付けています(こちらも保証契約の解除等を確約するものではない、とされています)。
なお、ここまでの話は、会社が事業を続けながら保証を外していくための見直しです。会社の借金を返しきれず、保証人として保証債務そのものを整理する場面は、別の考え方になります。その場合は個人保証がある場合、自宅や資産はどうなる?や特別清算とは?会社を清算したときの借入金と個人保証をご覧ください。
出典:経営者保証に関するガイドライン研究会「経営者保証に関するガイドライン」(平成25年12月)、同「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」(令和元年12月)、経済産業省・金融庁・財務省「経営者保証改革プログラム」(金融庁ホームページ掲載)、金融庁「「地域金融力強化プラン」を踏まえた監督指針の一部改正の概要」、金融庁「金融機関におけるM&A支援の促進等に関する監督指針改正(8月30日公表)の概要」、東京信用保証協会「保証料の上乗せで経営者保証が不要となる制度について」をもとに、当社で要約・編集して作成しました。
経営者保証の見直しは、オフィスレナセルにご相談を
経営者保証を外せるかどうかは、会社の財務内容、金融機関との取引の経緯、事業承継の予定などによって変わります。「何から手をつければよいか分からない」「金融機関に何をどう聞けばよいか整理したい」という段階でも、準備を始める価値はあります。
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本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の法的・会計的判断を保証するものではありません。経営者保証の解除・変更の可否や、信用保証制度の利用条件は、会社ごとの事情や金融機関・信用保証協会の判断によって異なり、記載した制度や監督指針も見直されることがあります。実際の経営者保証の見直しにあたっては、取引のある金融機関・信用保証協会にご確認いただき、あわせて認定経営革新等支援機関の税理士・公認会計士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容に基づく判断によって生じたいかなる損害についても、当社は責任を負いかねます。


