実態貸借対照表の作り方|資産の評価替えと負債の調整を科目別に解説

オフィスレナセル

 

「銀行から実態貸借対照表を出してほしいと言われたが、何をどう直せばよいのか分からない」。結論から言うと、実態貸借対照表(実態BS)は、決算書の帳簿価額を回収可能な価額(原則は時価。今後使わない資産は処分価額によることもできる)に置き直し、帳簿に載っていない負債を書き足して作る表です。作り方は、①評定の基準日を決めて資料をそろえる、②資産を科目ごとに評価し直す、③負債の計上漏れを足す、④調整の理由と根拠を一覧に残す、の4段階に整理できます。公的な物差しとしては、中小企業庁の「中小企業活性化協議会実施基本要領」別冊3(中小企業再生支援スキーム)に付いている「実態貸借対照表作成に当たっての評価基準」があります。この記事では、法人・会社向け借金再生コンサルティングのオフィスレナセルが、この評価基準に沿って、科目ごとの評価替えと負債の調整の進め方を解説します。

実態貸借対照表はどんな場面で求められるのか

実態BSそのものの意味や、実態で見て純資産がマイナスになる「実質債務超過」については、債務超過とは?実質債務超過の判定と解消期間の目安で解説しています。この記事は、その実態BSを実際に作る手順に絞ります。

公表されている手続のなかで、実態BSが求められる代表的な場面は次のとおりです。

▶ 中小企業活性化協議会の再生支援
中小企業庁「中小企業活性化協議会実施基本要領 別冊2 再生支援実施要領」(2026年3月31日改定)は、再生計画案に含める内容として、企業の概況や資金繰り計画などと並べて「実態貸借対照表」を挙げています。

▶ 中小企業の事業再生等に関するガイドライン
同ガイドライン(令和4年3月・令和8年3月一部改定)は、再生型私的整理手続の事業再生計画案に含める内容として実態貸借対照表を挙げています。ただし「債務返済猶予の場合は必須としない」とされています。廃業型私的整理手続の弁済計画案にも、実態貸借対照表が含まれています。

ここで押さえておきたいのは、この記事で使う「評価基準」は、本来は債務免除等を含む再生計画を協議会の再生計画検討委員会が調査する場合(中小企業再生支援スキーム)のために定められたものだという点です。返済猶予(リスケジュール)の相談で金融機関がどこまで厳密な評価を求めるかは、手続や金融機関によって異なります。また、各金融機関が内部でどのような基準で自社の実態を見ているかは公表されていません。とはいえ、科目ごとの評価方法まで公表されている資料なので、自社で実態をつかむ際の物差しとして参考になります。

実態貸借対照表の作り方|4つのステップ

ステップ1:評定の基準日を決め、資料をそろえる

評価基準は「適切な評定基準日を設定する」としたうえで、評定から計画の成立までに事情の変更があればその影響を反映し、基準日が属する事業年度の決算期が来るなど相当の期間がたつ場合には「適切に時点修正する」としています。直近の決算日を基準日にすれば決算書の数字から出発できますが、決算から時間がたっている場合は、その後の試算表で数字を置き直すことも検討が必要です。

手元にそろえたいのは、決算書と、科目ごとの相手先・金額が分かる勘定科目の内訳です。売掛金なら得意先ごとの残高と入金状況、在庫なら品目ごとの数量と最後に動いた時期、不動産なら所在地と登記の内容、保険なら解約返戻金の額が分かる資料、というように、評価替えの根拠になる資料を科目ごとに集めておくと、後の作業が進めやすくなります。

ステップ2:資産を科目ごとに評価し直す

評価基準の原則は「時価により評定する」です。時価は原則として「一定の信頼性をもって測定可能な公正な評価額」と定義され、観察できる市場価格がない場合は合理的に算定した価額を使います。ただし、今後継続して使わない資産は「処分価額」により評定することができるとされています。処分価額とは、売却や回収の見込額から、処分にかかる費用を差し引いた価額です。

中小企業で調整が出やすい科目について、評価基準の考え方をまとめると次のとおりです。

科目 評価基準での考え方(要約)
売上債権 債権金額から貸倒見積額を差し引く。相手先の状態に応じて「一般債権」「貸倒懸念債権」「破産更生債権等」に分けて見積もる
棚卸資産 商品・製品は、正味実現可能価額(売価からアフター・コストを差し引いた額)から、販売努力に対する合理的な見積利益を差し引いて評定。品質低下・陳腐化した在庫は正味売却価額や処分価額などに切り下げる
貸付金・仮払金 回収可能性に応じて貸倒見積額を差し引く。役員等への貸付金は、その役員等の資産や収入、保証債務の状況を勘案。仮払金のうち本来費用処理すべき額はゼロ
事業用不動産 原則は不動産鑑定評価額等。重要性が乏しい場合などは、地価公示等の公的評価額に基づく評価なども認められる
機械・車両などの償却資産 市場価格があればその価格。なければ原価法・収益還元法による価格や、適正に算定された未償却残高など
有価証券・関係会社株式 市場価格があればその価格。なければ合理的に算定された価額(株式は日本公認会計士協会の企業価値評価ガイドラインの評価方法等を参考)
保険積立金 評定時点で解約したと想定した場合の解約返戻金相当額
敷金・ゴルフ会員権 敷金は、返還時に差し引かれる額・原状回復費用の見積額などを控除。相場のない会員権は、入会金相当部分はゼロ、預託保証金相当部分は額面から貸倒見積額を控除
繰延資産 原則としてゼロ

※表は評価基準の内容を当社で要約したものです。正確な文言は末尾の出典をご確認ください。

見落としやすいのは、評価替えは減らす方向だけではないことです。原則が時価である以上、取得時より値上がりしている土地や、帳簿価額を上回る解約返戻金がある保険のように、実態のほうが大きくなる科目もあります。マイナスの調整だけを拾うと実態より悪く、プラスの調整だけを拾うと実態より良く見えてしまいます。どちらの方向でも、根拠をそろえて同じ物差しで見直すことが大切です。

なお、在庫と売掛金は評価替えの影響が大きくなりやすい科目でもあります。日々の運営のなかで在庫と売掛金を圧縮する考え方は、運転資金とは?在庫と売掛金の圧縮で資金繰りを改善する考え方で解説しています。

ステップ3:帳簿に載っていない負債を書き足す

資産の評価替えと同じくらい重要なのが、負債の側の調整です。評価基準は、別段の定めのない負債は原則として一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して評定するとしたうえで、次のような項目について定めを置いています。

▶ 退職給付引当金
企業会計の基準に準拠して設定し、退職が見込まれる従業員がいる場合は支給予定額を計上します。中小企業などで数理計算上の見積りが難しい場合は、簡便な方法を用いることができるとされています。

▶ 保証債務
会社がほかの会社などの債務を保証している場合は、保証債務の総額を負債に計上し、同額の求償権を資産に計上したうえで貸倒見積額を差し引きます(保証債務の総額から求償権の回収見積額を差し引いた額を、債務保証損失引当金として負債に計上する方法もあります)。他人の債務の担保に会社の資産を差し入れていて、担保権が実行される可能性が高い場合も、保証債務に準じて評定します。

▶ 割引手形・裏書譲渡手形
割り引いた手形や裏書して渡した手形については、買戻しの債務を負債として計上し、その見返りとして回収見込額を手形遡及権として資産に計上します(買戻債務から回収見込額を差し引いた額を、債務保証損失引当金として負債に計上する方法もあります)。手形を使っている会社は、支払手段の切り替えとあわせて確認しておきたい項目です(紙の手形廃止とは?最終振出期限後の支払手段と資金繰り対策)。

▶ リース債務
ファイナンス・リース取引に該当するリースを賃貸借取引に準じて処理していて、リース債権を担保債権として取り扱う場合について、評価基準は、未払リース料相当額を負債として計上し、見合いとしてのリース資産を償却資産(その他償却資産)に準じて評定するとしています。リースを使っている会社は、扱いを専門家に確認しておきたい項目です。

▶ そのほかの引当金
関係会社の整理や人員の整理など、事業の再構築に要する費用の見積額で、ほかの資産等の評定額に反映されていないものは、事業再生計画に基づいて引当金として計上するとされています。

このほか、滞納している税金・社会保険料や未払いの費用が正しく計上されているかも、あわせて確認しておきましょう。滞納がある場合の対応は税金・社会保険料を滞納したら?換価の猶予と納税・納付の猶予の使い方で解説しています。

ステップ4:調整の理由と根拠を一覧に残す

評価基準は、基準に定めのないほかの合理的な評定方法を用いた場合には「その他の合理的な評定方法の内容及び採用した理由を明記する」こと、重要性が乏しいとして簡便的な方法を用いた場合には「重要性の基準値及び簡便的な評定方法の内容を明記する」ことを求めています。つまり、実態BSは結果の数字だけでなく、なぜその金額にしたのかを説明できる形で作るものです。

評価基準は一覧の様式までは定めていませんが、たとえば科目ごとに「帳簿価額」「修正額」「実態の金額」「修正の理由と根拠資料」を横に並べた一覧にしておくと、金融機関から「この在庫の修正はどういう根拠か」と聞かれたときに、すぐに資料を示すことができます。計画書全体の組み立て方は、経営改善計画書の作り方|銀行が納得する書き方のコツもあわせてご覧ください。

実態貸借対照表を作るときの注意点

決算書を書き換えるものではない

評価基準の目的は「債務者の実態的な財政状態を明らかにして債務者の再生可能性の判断に資する情報を提供」することなどにあります。実態BSは、再生の可能性を判断したり、金融機関と話し合ったりするために作る表で、作ったからといって決算書の数字がそのまま変わるわけではありません。評価替えした金額を税務上どう扱えるかも別の問題になるため、税務の判断は税理士にご確認ください。

会社に都合のよい数字にしない

実態BSは、金融機関や専門家が根拠を確認することを前提にした資料です。回収の見込みが薄い売掛金を満額のまま残したり、使っていない設備を帳簿価額のまま載せたりすると、その時点では見栄えがよくても、確認の段階で修正されれば説明の信頼性そのものが損なわれます。厳しい数字でも、根拠を添えて先に示しておくほうが、その後の話し合いは進めやすくなります。

実態の数字から、次の手を考える

実態BSができると、実態で見た純資産がプラスかマイナスか、マイナスならどのくらいの幅かが分かります。マイナスの場合に何年で解消を目指すのかの目安は債務超過とは?実質債務超過の判定と解消期間の目安で、金融機関の側から見た評価は銀行の債務者区分(格付け)とは?5つの区分と改善のポイントで解説しています。今後の資金の動きを示す資金繰り表の作り方と銀行への見せ方と組み合わせることで、「いまの実態」と「これからの見通し」を一体で説明できるようになります。

出典:中小企業庁「中小企業活性化協議会実施基本要領 別冊3 中小企業再生支援スキーム」(2022年4月1日作成・2022年12月26日改正)別紙「実態貸借対照表作成に当たっての評価基準」、同「中小企業活性化協議会実施基本要領 別冊2 再生支援実施要領」(2026年3月31日改定)、中小企業の事業再生等に関する研究会「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(令和4年3月・令和8年3月一部改定)をもとに、当社で要約・編集して作成しました。

実態貸借対照表づくりは、オフィスレナセルにご相談を

実態BSは、科目ごとに根拠資料を集め、評価の考え方をそろえて積み上げていく地道な作業です。一方で、ここが固まらないと、債務超過の幅も、返済計画の妥当性も、金融機関に根拠をもって説明しにくくなります。「どの科目から手を付ければよいか分からない」「銀行から求められたが、何を出せばよいのか整理できていない」という段階でも構いません。

オフィスレナセルは、法人・会社の借金問題に向き合う事業再生コンサルティングとして、財務の実態把握から経営改善のプランニング、金融機関との対話まで、経営者に伴走してご支援します。なお、不動産の鑑定評価は不動産鑑定士が、税務の判断は税理士が、法律判断は弁護士が担う業務です。当社はその前段の整理と、必要に応じて専門家へつなぐところをお手伝いする立場です。まずはお問い合わせからお気軽にご相談ください。

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【免責事項】
本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の法的・会計的判断を保証するものではありません。実態貸借対照表の作成方法や資産の評価は、利用する手続や金融機関、個別の事情によって異なり、税務上の取扱いも取引の内容によって変わります。実際の実態貸借対照表の作成や金融機関への提出にあたっては、必ず認定経営革新等支援機関の税理士・公認会計士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容に基づく判断によって生じたいかなる損害についても、当社は責任を負いかねます。