
決算書の純資産がマイナスになった、あるいは銀行から「実質は債務超過ですね」と言われた——。経営者にとって重い言葉ですが、債務超過はそれ自体が倒産を意味するものではありません。問題は、いつまでにどう解消していくかを説明できるかどうかです。この記事では、決算書上の債務超過と「実質債務超過」の違い、銀行がどこを見ているか、そして解消までの期間の目安を、公表されているガイドラインに沿って整理します。
債務超過とは?「実質債務超過」との違い
決算書上の債務超過
債務超過とは、負債の総額が資産の総額を上回っている状態、つまり貸借対照表の純資産の部がマイナスになっている状態を指します。理屈のうえでは、すべての資産を処分しても負債を返しきれない、ということになります。
ただし、これはあくまで帳簿上の数字を積み上げた結果にすぎません。赤字が続いて繰越損失がたまれば純資産は減っていきますし、逆に帳簿上は純資産がプラスでも、中身を洗い直すとマイナスになる会社もあります。
実質債務超過=実態貸借対照表で見た姿
金融機関や再生の実務で使われるのは、帳簿そのものではなく実態貸借対照表(実態BS)です。これは資産を回収可能性や時価で評価し直し、計上されていない負債を加えて作り直した貸借対照表のことで、その結果として純資産がマイナスになる状態を実質債務超過と呼びます。
▶ 実態BSで調整されやすい項目
・長期間回収できていない売掛金、貸付金
・実際には販売の見込みが立たない在庫(不良在庫)
・取得時より価値が下がっている不動産や有価証券
・回収が見込めない関係会社への出資、仮払金
・退職金や未払残業代など、計上されていない負債
「決算書は黒字なのに融資が伸びない」という会社で、この実態BSの段階でマイナスになっているケースもあります。金融機関がどの区分で自社を見ているかについては銀行の債務者区分(格付け)とは?5つの区分と改善のポイントを、その区分の側から見た年数の考え方については実質破綻先(じっぱ)とは?分類されたらどうなるかと再建の選択肢で解説しています。この記事で扱うガイドラインの年数とは出所が別のものなので、混同しないようご注意ください。
解消までの期間には、公表された目安があります
債務超過をどのくらいの期間で解消すべきか。ここは経営者の感覚で決めるものではなく、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(令和4年3月・令和8年3月一部改定/中小企業の事業再生等に関する研究会)に一つの答えが示されています。
ただし前提があります。これは同ガイドライン第三部の「再生型私的整理手続」を使う場合に、事業再生計画案が含むべき内容として定められたものです。同ガイドラインは「法的拘束力はないものの、…自発的に尊重され遵守されることが期待されている」もので、すべての債務超過の会社に一律に課される基準ではありません。
・「実質的に債務超過である場合は、事業再生計画成立後最初に到来する事業年度開始の日から5年以内を目途に実質的な債務超過を解消する内容とする」
・「経常利益が赤字である場合は、事業再生計画成立後最初に到来する事業年度開始の日から概ね3年以内を目途に黒字に転換する内容とする」
・「事業再生計画の終了年度(原則として実質的な債務超過を解消する年度)における有利子負債の対キャッシュフロー比率が概ね10倍以下となる内容とする」
いずれの項目にも「企業の業種特性や固有の事情等に応じた合理的な理由がある場合には、これを超える計画を排除しない」旨の但し書きが付いています(5年・3年の項目は「これを超える期間を要する計画」、10倍の項目は「これを超える比率となる計画」と書き分けられています)。5年を1日でも過ぎたら不可、という性質のものではありません。
さらに同ガイドラインには、小規模企業者が債務減免等の要請を含まない事業再生計画案を作成する場合には、別に定める要件を満たすことでこの3項目を含めないことができるという定めもあります。数字だけが独り歩きしやすい部分なので、自社に当てはまるかどうかは専門家に確認してください。
とはいえ、この3つが実務上の目安として広く参照されているのは確かです。同ガイドラインは「他の準則型私的整理手続において具体的定めがない場合には、…本手続を参照すべき拠り所として活用することが期待されている」とも述べており、準則型私的整理の共通のものさしという位置づけになっています。
なお同ガイドラインは、事業再生計画案に含める資料として実態貸借対照表を挙げています(債務返済猶予の場合は必須としない、とされています)。実態BSの作成は、計画づくりの出発点という位置づけです。私的整理の枠組みそのものについては私的整理ガイドラインと特定調停スキームの違い、公的な相談窓口については中小企業活性化協議会とは?をご覧ください。
債務超過を解消する主な方向性
▶ ① 利益を積み上げる
もっとも基本の道筋です。まず経常利益の黒字化、そこから純資産の回復へと段階を踏みます。資金繰りの改善余地は運転資金とは?在庫と売掛金の圧縮で資金繰りを改善する考え方にまとめています。
▶ ② 資本を入れる
増資のほか、既存の借入金を株式に振り替えるDES(債務の株式化)という手法があります。仕組みと税務上の注意点はDES(債務の株式化)とは?で解説しています。
▶ ③ 資産の整理
遊休資産や事業用でない不動産を売却し、負債を圧縮します。含み益がある資産であれば、売却により純資産が改善する場合もあります。
▶ ④ 金融支援を求める
返済猶予(リスケジュール)で時間を確保する、あるいは債務の減免を含む再生計画を作る、という方向です。どこまで踏み込むかは、実態BSのマイナス幅と事業の収益力しだいで変わります。
いずれの道を選ぶにしても、出発点は自社の実態がいくらのマイナスなのかを正確につかむことです。ここが曖昧なまま銀行に相談しても、計画の妥当性を説明できません。計画書の組み立て方は経営改善計画書の作り方|銀行が納得する書き方のコツもあわせてご覧ください。
実態の把握から、ご相談ください
債務超過という言葉だけが独り歩きすると、「もう手がない」という結論に飛びついてしまいがちです。実際には、実態BSを作って初めて、マイナスがいくらで、何年で埋められそうかが見えてきます。金融機関との対話も、そこからでなければ始まりません。
オフィスレナセルは、法人・会社の借金問題に向き合う事業再生コンサルティングとして、財務の実態把握から金融機関への説明の組み立て、認定経営革新等支援機関や弁護士など専門家との連携までを、経営者に伴走してご支援しています。決算書を前に手が止まっている段階でも構いません。まずはオフィスレナセルまでお気軽にご相談ください。
本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の法的・会計的判断を保証するものではありません。実態貸借対照表の作成方法や資産の評価、事業再生計画の要件の当てはめは個別の事情によって異なり、税務上の取扱いも取引の内容によって変わります。実際のご判断にあたっては、必ず認定経営革新等支援機関の税理士・公認会計士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容に基づく判断によって生じたいかなる損害についても、当社は責任を負いかねます。


