税金・社会保険料を滞納したら?換価の猶予と納税・納付の猶予の使い方

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資金繰りが詰まってくると、支払いの順番は自然と後回しにできるものから決まっていきます。そのなかで、消費税や源泉所得税、社会保険料の納付を先送りしている会社は少なくありません。ただ、税金と社会保険料の滞納は、銀行借入の延滞とは仕組みそのものが違います。判決を取らなくても差押えができるからです。一方で、法律には猶予の制度が用意されており、申請すれば分割納付に切り替えられる道もあります。この記事では、その違いと猶予制度の要件を、条文と公的機関の公表資料に沿って整理します。

税金・社会保険料の滞納は、なぜ銀行借入と扱いが違うのか

銀行からの借入を延滞した場合、金融機関はまず督促を行い、話がまとまらなければ訴訟や支払督促を経て、判決にもとづいて強制執行を申し立てます。つまり、差押えまでには裁判所の手続が挟まります。この流れは会社の借金を放置するとどうなる?時効・督促・差押えのリアルで詳しく解説しています。

これに対し、国税は違います。国税徴収法第四十七条第一項は、次のように定めています。

次の各号の一に該当するときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押えなければならない。
一 滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して十日を経過した日までに完納しないとき。
二 納税者が国税通則法第三十七条第一項各号(督促)に掲げる国税をその納期限(繰上請求がされた国税については、当該請求に係る期限)までに完納しないとき。

▶ 裁判を経ずに差押えができる
条文には裁判所の関与が出てきません。督促状が出て、そこから10日を経過した日までに納付されなければ、徴収職員が財産を差し押さえることになっています。しかも「差し押えなければならない」という書き方です。
もっとも、10日を過ぎた翌日にただちに差押えが行われるという意味ではなく、実際には財産の調査などを経ます。押さえておきたいのは、この日を過ぎると差押えができる状態に入るという点です。

社会保険料も同じ構造です。厚生年金保険法第八十六条は、督促状で指定する期限を「督促状を発する日から起算して十日以上を経過した日」としたうえで、第五項で、督促を受けた者が指定の期限までに納付しないときは「国税滞納処分の例によつてこれを処分し」と定めています。社会保険料の滞納も、国税と同じやり方で処分されるということです。

ここが、資金繰りの優先順位を考えるうえでの分かれ目になります。取引先からの入金や預金が差し押さえられれば、事業の継続そのものが揺らぎます。

国税には2つの猶予制度がある

もっとも、法律は「払えないなら即差押え」だけを用意しているわけではありません。国税には性質の異なる2つの猶予制度があります。

換価の猶予(申請によるもの/国税徴収法第151条の2)

財産の換価(売却)を待ってもらい、分割で納付していく制度です。国税庁が公表している「猶予の申請の手引」(令和8年4月)は、換価の猶予が認められた場合の効果を、①すでに差押えを受けている財産の換価(売却)が猶予される、②差押えにより事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがある財産については差押えが猶予(又は解除)される場合がある、③期間中の延滞税が軽減されるとしています。

なお換価の猶予には、税務署長の職権によるもの(国税徴収法第151条)と、納税者の申請によるもの(同法第151条の2)があります。ここでは経営者が自ら動ける申請によるものを取り上げます。同手引は、その要件を次の5つとして示しています。

▶ ① 事業の継続または生活の維持を困難にするおそれ
一時に納付することで事業を続けられなくなるおそれがあること。同手引は「事業の継続を困難にするおそれがある」を、不要不急の資産を処分するなど事業経営の合理化を行った後においても、なお一時に納付することにより事業を休止または廃止させるおそれがある場合と説明しています。手を尽くしたうえで、なお払えないという状態が前提です。

▶ ② 納税について誠実な意思があること
その国税を優先的に納付する意思があると税務署長が認められることをいう、とされています。

▶ ③ ほかに国税の滞納がないこと
猶予を受けようとする国税以外の滞納があると、原則として認められません。

▶ ④ 納期限から6か月以内の申請
「換価の猶予申請書」を、納期限から6か月以内に所轄の税務署へ提出する必要があります。ここは期限が決まっているので、気づいた時点で日付を確認してください。

▶ ⑤ 原則として担保の提供
猶予を受けようとする金額に相当する担保が原則として必要ですが、同手引は、猶予を受ける金額が100万円以下である場合、猶予期間が3か月以内である場合、担保を提供することができない特別の事情がある場合には担保の提供は不要としています。

猶予を受けられる期間は1年の範囲内で、猶予を受けた国税は原則として猶予期間中の各月に分割して納付します。猶予期間内に完納できないやむを得ない理由があると認められる場合は、当初の期間が終了する前に申請することで、当初の猶予期間とあわせて最長2年以内の範囲で延長が認められることがあります。

納税の猶予(国税通則法第46条)

こちらは、納税そのものを猶予する制度です。同じ手引は、納税の猶予が認められた場合の効果を、①新たな差押えや換価(売却)などの滞納処分の執行を受けない、②すでに差押えを受けている財産があるときは申請により差押えが解除される場合がある、③期間中の延滞税が軽減又は免除されるとしています。すでに押さえられた財産の売却を待ってほしいのか、これから先の差押えを止めたいのかで、選ぶ制度が変わります。

国税通則法第四十六条第二項は、次の事実があり、その事実にもとづいて一時に納付することができないと認められるときに、その納付することができないと認められる金額を限度として、申請にもとづき1年以内の期間を限って納税を猶予できると定めています。

一 納税者がその財産につき、震災、風水害、落雷、火災その他の災害を受け、又は盗難にかかつたこと。
二 納税者又はその者と生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したこと。
三 納税者がその事業を廃止し、又は休止したこと。
四 納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと。
五 前各号のいずれかに該当する事実に類する事実があつたこと。

中小企業の場合、実務上は四号の「事業につき著しい損失を受けたこと」が入口になります。ただし、ここに大きな前提があります。国税庁の手引は、これらの事実について「納税者の責めに帰することができないやむを得ない理由により生じた事実に限ります」としています(日本年金機構の手引も同じ趣旨です)。単に赤字であればよい、という制度ではありません。

その「著しい損失」にも定義があります。同手引は、猶予を受けようとする期間の始期の前日以前の1年間(調査期間)の損益計算において、その直前1年間(基準期間)の利益の額の2分の1を超えて損失が生じていることとし、括弧書きで「基準期間において損失が生じている場合には、調査期間の損失の金額が基準期間の損失の金額を超えていること」と補っています。前年もすでに赤字だった会社は、この括弧書きのほうで判断することになります。

▶ 延滞税はどうなるか
国税通則法第六十三条第一項は、上の引用でいえば三号・四号(事業の廃止・休止、事業の著しい損失)を理由とする納税の猶予や換価の猶予をした場合について、猶予をした期間(納期限の翌日から2か月を経過する日後の期間に限ります)に対応する延滞税の2分の1に相当する金額を免除すると定めています。これに対して一号・二号(災害や盗難、病気や負傷)を理由とする納税の猶予や、滞納処分の執行の停止の場合は、その期間に対応する部分が全額免除の扱いです。放置して延滞税が積み上がるのと、申請して猶予を受けるのとでは、最終的な負担が変わってきます。

社会保険料にも同じ枠組みがある

厚生年金保険料等についても、日本年金機構が「換価の猶予」と「納付の猶予」の2つを案内しています。厚生年金保険法第八十九条が「保険料その他この法律の規定による徴収金は、この法律に別段の規定があるものを除き、国税徴収の例により徴収する」と定めていることから、猶予の仕組みも国税の制度が準用される形になっており、考え方はよく似ています(同機構の換価の猶予申請書にも、同条を通じて国税徴収法第151条の2第1項による旨が記載されています)。

換価の猶予

保険料等を一時に納付することにより事業の継続または生活の維持を困難にするおそれがあるなど一定の要件に該当するときは、納期限から6か月以内に管轄の年金事務所へ申請することで、1年以内の期間に限り認められる場合があるとされています。同機構の「猶予の申請の手引」は要件を6つとしており、国税の5要件に「納付すべき保険料等について、納付の猶予の適用を受けていないこと」が加わります。認められると、財産の差押えや換価(売却)が猶予され、猶予期間中の延滞金が一部免除されます。
なお、同機構の資料には「申請対象となる月以外の保険料等を滞納している場合は、原則として換価の猶予は認められません」との注記があります。

納付の猶予

災害・盗難、病気や負傷(この事由は個人事業主とその親族に限られ、法人の事業所は対象から外れています)、事業の廃止・休止、事業について著しい損失を受けたこと、各種届出の遅延により過去の月分の社会保険料が発生したこと——といった事由により一時に納付することが困難なときは、管轄の年金事務所を経由して地方厚生(支)局長へ申請することで、1年以内の期間に限り認められる場合があります。認められた場合、延滞金は全額または一部が免除されます。

▶ 「著しい損失」の判定は国税と同じ
同機構のパンフレットは「著しい損失」を「申請前の1年間において、その前年の利益の額の2分の1を超える損失(赤字)を生じた場合」と要約していますが、手引には国税と同じ完全な定義(調査期間・基準期間の考え方と、基準期間も赤字だった場合の扱い)が記載されています。決算の数字で当たりをつけることはできますが、最終的な判断は管轄の年金事務所にご確認ください。

担保や猶予期間の考え方も国税と同じで、猶予を受ける金額が100万円以下の場合や猶予期間が3か月以内の場合などは担保の提供が不要とされ、猶予期間は1年の範囲内、延長は当初とあわせて最長2年間までとされています。

猶予は「取れば終わり」ではない

見落とされやすいのが、猶予は取り消されることがあるという点です。国税庁の手引は、猶予が許可された後でも、許可通知書で通知された分割納付計画のとおりに納付しないときや、猶予を受けている国税以外に新たに納付すべきこととなった国税が滞納となったときなどには、猶予が取り消されたり期間が短縮されたりすることがあるとしています。日本年金機構の資料にも、同じ趣旨の記載があります。

なお国税通則法第六十三条第一項には、猶予の取消しの原因となるべき事実が生じた場合には、その日以後の期間に対応する延滞税を免除しないことができる、という但し書きがあります。猶予が取り消されれば、軽くなるはずだった延滞税の負担も戻ってきます。つまり、猶予を受けたあとは、その分割計画を守り切れる資金繰りになっていることが前提になります。無理な分割回数で申請しても、途中で崩れれば元に戻ってしまうということです。ここは金融機関へのリスケジュールの交渉と同じ構造で、資金繰り表の作り方と銀行への見せ方で整理した月次の資金繰り表が、そのまま説明材料になります。

▶ 窓口が別であることも押さえておく
税金は税務署、社会保険料は年金事務所、借入は金融機関と、相談先も判断する主体も分かれています。「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」も、扱う債務を「主として金融債務」とし、対象債権者を「中小企業者に対して金融債権を有する債権者」と定めています。金融機関へのリスケジュールがまとまっても、公租公課の猶予は別に申請しなければ動きません。逆に、猶予で当面の資金流出を止められれば、金融機関との交渉に必要な時間を確保しやすくなります。全体をどう組み立てるかは、中小企業活性化協議会とは?事業再生の公的窓口と支援の流れもあわせてご覧ください。

滞納が続く前に、ご相談ください

税金や社会保険料の滞納は、「支払いを後ろへ回している」という感覚のまま進みがちですが、督促状が出た段階で時計は動き始めています。猶予の申請には期限があり、換価の猶予は納期限から6か月以内という区切りがあります。手を打てる時期のうちに動けるかどうかで、選べる道が変わります。

オフィスレナセルは、法人・会社の借金問題に向き合う事業再生コンサルティングとして、資金繰りの実態把握から金融機関への説明の組み立て、認定経営革新等支援機関や弁護士など専門家との連携までを、経営者に伴走してご支援しています。なお、猶予そのものの申請先は所轄の税務署・管轄の年金事務所です。要件に当てはまるかどうかの判断や申請書類の作成については、末尾の免責事項のとおり、税理士・公認会計士・弁護士などの専門家にもご相談ください。どこから手をつければよいか分からない段階でも構いません。まずはオフィスレナセルまでお気軽にご相談ください。

【免責事項】
本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の法的・会計的判断を保証するものではありません。猶予制度の要件の当てはめや必要書類、審査の結果は個別の事情によって異なり、記載した内容も改正されることがあります。実際の申請にあたっては所轄の税務署・管轄の年金事務所にご確認いただき、あわせて認定経営革新等支援機関の税理士・公認会計士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容に基づく判断によって生じたいかなる損害についても、当社は責任を負いかねます。