
会社をたたむと決めたとき、経営者が真っ先に確かめておきたいのは、残っている借入金がどうなるのかと、自分が差し入れた個人保証がどうなるのかの2点です。結論から書きます。解散して清算手続に入っても、借入金が自動的に消えるわけではありません。会社の財産で返しきれない状態のままでは、通常の清算では手続を終えられず、そこで検討することになるのが特別清算(会社法第510条以下)です。そして、特別清算の協定で会社の借入金が減額されても、経営者個人の保証はそれだけでは消えません。会社法第571条第2項が、そう明記しているからです。この記事では、法人・会社向け借金再生コンサルティングのオフィスレナセルが、特別清算の要件と流れ、そして借入金と個人保証の扱いを、条文に沿って整理します。
会社を解散しても、借入金は自動的には消えない
会社という法人を消滅させるには、解散と清算の2段階を踏みます。会社法第475条第1号は、株式会社は解散した場合には清算をしなければならないと定めています(破産手続開始の決定により解散し、その破産手続が終了していない場合などは除かれます)。清算にあたる清算人は、定款の定めや株主総会の決議で別に選ばない限り、取締役がそのまま就任します(会社法第478条第1項)。
清算とは、会社の財産を換価して債権者に弁済し、残った財産を株主に分配する手続です。裏返せば、債権者に全額を弁済できるのかどうかが最初に問われます。資産をすべて処分しても借入金を返しきれない——つまり債務超過であれば、通常の清算では終われません。この場合に検討する法的な手続が、特別清算と破産です。廃業と倒産という言葉の整理や、解散・清算の全体像は廃業と倒産の違いとは?会社をたたむ前に知る解散・清算で解説していますので、あわせてご覧ください。
特別清算とは(会社法第510条以下)
特別清算は、すでに解散して清算中の株式会社(清算株式会社)について、裁判所の監督のもとで清算を進める手続です。まだ解散していない会社が特別清算を使うには、先に株主総会の決議で解散し(会社法第471条第3号)、清算に入っている必要があります。会社法第510条は、開始の原因を次のように定めています。
一 清算の遂行に著しい支障を来すべき事情があること。
二 債務超過(清算株式会社の財産がその債務を完済するのに足りない状態をいう。次条第二項において同じ。)の疑いがあること。
申立てができる人と、清算人の義務
特別清算開始の申立てができるのは、債権者・清算人・監査役・株主です(会社法第511条第1項)。加えて同条第2項は、清算株式会社に債務超過の疑いがあるときは、清算人は特別清算開始の申立てをしなければならないと定めています。清算人の判断で先送りしてよい手続ではない、ということです。管轄は、原則として会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所になります(会社法第868条第1項)。
あわせて押さえておきたいのが、清算株式会社の財産がその債務を完済するのに足りないことが明らかになったときは、清算人は直ちに破産手続開始の申立てをしなければならないという規定です(会社法第484条第1項)。どちらの手続を選ぶにせよ、申立てをしないまま清算を続けることは認められていません。債務超過が明らかな段階で特別清算を選べるかどうかは、弁護士に確認してください。
申立てがあり、開始の原因となる事由があると裁判所が認めれば開始命令が出ますが、会社法第514条は次の4つのいずれかに当たる場合を除く、としています。①手続の費用の予納がないとき、②特別清算によっても清算を結了する見込みがないことが明らかであるとき、③特別清算によることが債権者の一般の利益に反することが明らかであるとき、④不当な目的で申立てがされたときその他申立てが誠実にされたものでないときです。費用の準備ができていない、あるいは債権者にとって特別清算で進める意味がないという状態では、そもそも入口に立てません。
▶ 対象は「清算株式会社」=株式会社に限られる
条文が対象としているのは清算株式会社です。合同会社など株式会社以外の会社は特別清算を利用できず、債務超過であれば破産などを検討することになります。会社の形態によって選べる手続が変わる点は、最初に押さえておきたいところです。なお、会社法施行前から「有限会社」の商号で続いている会社(特例有限会社)は、株式会社として存続しているものの、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第35条により特別清算の規定が適用されません。有限会社の場合も破産などを検討することになります。
開始命令で何が変わるか
特別清算開始の命令があると、破産手続開始の申立てはできなくなり、会社の財産に対してすでに行われている強制執行・仮差押え・仮処分などは中止されます(会社法第515条第1項。一般の先取特権その他一般の優先権がある債権に基づくものは除かれます)。個別の取立てを止めて、債権者全体で公平に処理する枠組みに切り替わるわけです。
あわせて、清算人には債権者・会社・株主に対する公平誠実義務が課され(会社法第523条)、財産の処分、借財、訴えの提起、和解、権利の放棄といった行為には裁判所の許可が必要になります(会社法第535条第1項。監督委員が選任されているときは、これに代わる監督委員の同意)。事業の全部の譲渡や重要な一部の譲渡についても、裁判所の許可が要ります(会社法第536条第1項)。裁判所は監督委員を選任し、許可に代わる同意をする権限を与えることができます(会社法第527条)。
▶ 財産を動かすのは、引き続き清算人
後述する破産と大きく違うのはこの点です。特別清算では、会社の財産を管理・処分するのは清算人(多くの場合は元の取締役)のままで、そこに公平誠実義務と裁判所の許可という枠がかかる構造になっています。
特別清算は「債権者の同意」で決まる手続
協定型——債権者集会で協定を可決する
清算株式会社は、債権者集会に対して協定の申出をすることができます(会社法第563条)。協定による権利の変更の内容は、協定債権者の間で平等でなければなりません(会社法第565条。不利益を受ける協定債権者の同意がある場合など、衡平を害しない場合は例外があります)。
可決の要件は、会社法第567条第1項が次の2つをいずれも満たすこととしています。
一 出席した議決権者の過半数の同意
二 議決権者の議決権の総額の三分の二以上の議決権を有する者の同意
協定が可決されたときは、清算株式会社は遅滞なく裁判所に認可の申立てをしなければならず(会社法第568条)、法律違反や遂行の見込みがないといった不認可事由がなければ認可の決定がされます(会社法第569条)。協定は認可の決定の確定によって効力を生じ(会社法第570条)、清算株式会社とすべての協定債権者に対して効力を持ちます(会社法第571条第1項)。
和解型——債権者と個別に和解する
債権者集会を開いて協定を成立させるほかに、会社法第535条第1項第4号が挙げる「和解」として、個々の債権者と個別に和解する進め方もあり、実務では和解型と呼ばれることがあります。この場合も、和解には裁判所の許可(監督委員が選任されているときはその同意)が必要です。債権者の数が限られている場合に検討されますが、どちらの進め方を採るかは債権者の構成や債権額の分布によって変わります。
まとまらなければ、破産に移る
会社法第574条第1項は、特別清算開始後に協定の見込みがないとき、協定の実行の見込みがないとき、特別清算によることが債権者の一般の利益に反するときに、破産手続開始の原因となる事実があると認められれば、裁判所は職権で破産手続開始の決定をしなければならないと定めています。協定が否決されたときや不認可の決定が確定したときも、職権で破産手続開始の決定をすることができます(同条第2項)。
つまり特別清算は、主要な債権者の同意が得られる見込みがあってはじめて選べる手続です。金融機関を含む債権者との関係が壊れたままでは成立しません。日ごろの説明の積み重ねが効いてくるという意味では、債務超過とは?実質債務超過の判定と解消期間の目安で触れた財務の説明責任と地続きの話でもあります。
破産とどう違うのか
債務超過の会社をたたむ手続として並ぶのが破産です。条文のうえでの違いを整理すると、次のようになります。
※ スマートフォンでは表を横にスクロールしてご覧ください。
| 項目 | 特別清算 | 破産 |
|---|---|---|
| 対象 | 清算株式会社(会社法第510条。特例有限会社を除く) | 法人・個人 |
| 前提 | 解散して清算中であること | 解散していなくても申立てできる |
| 財産の管理処分 | 清算人が行う(会社法第523条・第535条) | 裁判所が選任した破産管財人に専属(破産法第31条第1項・第78条第1項) |
| 債務の処理 | 協定の可決と認可が必要=債権者の同意が前提(会社法第567条・第569条)。税金・社会保険料など優先権のある債権は協定の対象外 | 債権者の同意は要さず、配当のあとに法人そのものが消滅する |
| 行き詰まったとき | 職権で破産手続開始の決定(会社法第574条) | — |
どちらが適しているかは、債権者の顔ぶれ、資産の内容、残されている時間によって変わります。特別清算のほうが常に有利、という性質のものではありません。債権者の同意が見込めるかどうかが分かれ目で、そこは会社の状況ごとに弁護士を交えた検討が必要になります。
借入金と個人保証は、それぞれどうなるのか
協定の認可の決定が確定すると、協定債権者の権利は協定の定めに従って変更されます(会社法第571条第3項)。会社の借入金が減額または免除されるのは、この効果によるものです。なお、協定で権利が変更されるのは「協定債権」に限られます。国税・地方税や社会保険料のように一般の優先権がある債権は協定債権に含まれず(会社法第515条第3項)、協定によって減額されることはありません。滞納がある場合は、その処理を先に確認してください。
問題は、その効果が経営者個人にも及ぶのかどうかです。会社法第571条第2項は、次のように定めています。
条文の言うとおり、協定は、債権者が保証人に対して持っている権利に影響を及ぼしません。会社の債務が協定で大幅にカットされても、保証人に対する請求権はそのまま残るということです。会社の不動産などに設定された抵当権・質権といった担保権(会社法第522条第2項に規定するもの)も協定の影響を受けず、担保の範囲では従来どおり回収されます。担保として差し入れた自宅など、会社以外の人が提供した担保についても同じです。特別清算の協定で会社の債務が整理されても、経営者個人の保証がそれに合わせて消えるわけではありません。連帯保証人の責任の範囲については連帯保証人の責任はどこまで?家族への影響と相続で整理しています。
だからこそ、会社の清算と保証債務の整理は、別々に組み立てる必要があります。ここで手がかりになるのが「経営者保証に関するガイドライン」(日本商工会議所と全国銀行協会を事務局とする経営者保証に関するガイドライン研究会が2013年12月5日に公表)と、その考え方を廃業の場面に即して整理した「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」(2022年3月4日取りまとめ、2023年11月22日改定)です。
改定を伝える研究会の公表文(全国銀行協会サイト掲載)には、基本的考え方の取りまとめ以降「主たる債務者が廃業したとしても、保証人は破産手続を回避し得ることが周知され、取組みが進んできました」とあり、今回の改定は「廃業手続に早期に着手することが、保証人の残存資産の増加に資する可能性があること等を明確化するもの」と説明されています。
▶ ただし、要件を満たすかどうかは個別の判断
ガイドラインは法律ではなく、中小企業・経営者・金融機関の自主的・自律的な準則です。適用されれば必ず自宅が残る、といった性質のものではありません。何が要件になるのかは経営者保証ガイドラインの活用条件とは?3つの要件を解説にまとめています。会社の手続を先に進めてしまってから保証債務の相談を始めると、選べる形が狭まることがあります。会社側の段取りと保証債務の整理は、同じテーブルで検討してください。
動き出す前に確認しておきたい3点
▶ ① 税務の取扱いを先に確認する
法人税法第59条第4項は、内国法人が解散した場合において残余財産がないと見込まれるときは、清算中に終了する事業年度前の各事業年度に生じた欠損金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額に相当する金額を、その事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入すると定めています。債務免除益が出る場面では影響の大きい規定ですが、計算方法は政令に委ねられており、適用の可否も個別の事情によります。着手前に税理士に確認してください。
▶ ② 債権者の構成を数えておく
協定型を採るなら、出席した議決権者の過半数と議決権総額の3分の2以上という2つの要件(会社法第567条第1項)を同時に満たす必要があります。借入が1〜2行に集中しているのか、少額の取引債権者が多数いるのかで、見通しは大きく変わります。まず債権者と債権額の一覧をつくるところからです。
▶ ③ 「たたむ」以外の選択肢を消し込んだか
事業そのものに収益力が残っているなら、たたむ前に検討すべき道があります。優良事業を切り出す第二会社方式(事業を移したあとの旧会社を特別清算で閉じる組み合わせが、実務ではよく用いられます)、外部のスポンサーに事業を引き継ぐ事業譲渡・M&A、会社を存続させたまま再建する民事再生——いずれも、資金が完全に尽きる前でなければ選べません。清算の検討と並行して、これらが本当に使えないのかを確かめておく価値があります。
たたむと決める前に、一度整理しませんか
特別清算は、債権者の同意を得ながら会社を閉じる手続です。裏を返せば、債権者に説明できる材料が揃っているかどうかで成否が変わります。決算書の数字、資産の実態、返済の履歴、そしてなぜここに至ったのかの説明——これらは、清算に進む場合も、再生を目指す場合も同じように必要になります。
オフィスレナセルは、法人・会社の借金問題に向き合う事業再生コンサルティングとして、財務の実態把握から金融機関への説明の組み立て、認定経営革新等支援機関や弁護士など専門家との連携までを、経営者に伴走してご支援しています。なお、特別清算や破産の申立ては裁判所の手続であり、その代理を含む法律事務は弁護士が、税務の判断は税理士が担います。保証債務の整理をガイドラインに基づいて進める場合も、弁護士などの支援専門家が担います。当社はその前段の整理と、専門家へつなぐところをお手伝いする立場です。たたむか残すかを決めきれない段階でも構いません。まずはオフィスレナセルまでお気軽にご相談ください。
本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の法的・会計的判断を保証するものではありません。特別清算・破産などの手続の選択、要件の当てはめ、税務上の取扱いは個別の事情によって異なり、記載した法令・ガイドラインの内容も改正されることがあります。実際の手続の検討にあたっては、必ず認定経営革新等支援機関の税理士・公認会計士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容に基づく判断によって生じたいかなる損害についても、当社は責任を負いかねます。


